若手監督インタビュー 『アオとシオリ』吉川諒監督

ただそこにある関係だけを映したい。

———まず『アオとシオリ』の制作経緯を教えていただけますか。


吉川監督(以下、吉川):制作は授業の一環という形で始まりました。その中で自分がいま何を描きたいのかを考えたときに、自分は家族のことだったり恋人や友人に対していつも何かしら距離を感じてしまっていたんです。制作する中でその距離を理解したいという個人的な思いが大きくて、その“わからなさ”が多分今回のテーマでした。映画とかドラマでも(それぞれの関係性を)理解するための理由付けをして、物語を一つの方向へ持っていこうとすることが多いと思うんですけど、そういったことはせずにただそこにある関係だけを映したいなと思ったのもスタートでした。登場人物たちがわからないなりに動いて、お互いをわかろうとする行為についての美しさとか面白さはちょっとだけ見えたんじゃないかなと。

———主演2人のキャスティングはどのような経緯で行われましたか。


吉川:根矢さんが出演された作品を観たことがあり、それで根矢さんのTwitterを少し見ていたら、芋生さんと2人で写っている写真がツイートされていたんです。その写真を撮ったのが根矢さんだとわかったので、もしかしたらこの2人は今回の役に合うんじゃないかと思ってオファーしました。

現場で初めて知り合っただけでは撮れない距離感の写真になっていると感じましたね。

———本作ではアオとシオリという二人の変化していく距離が重要だと思うのですが、現場での俳優さんへの演出などで意識したことはありますか。

吉川:演出に関しては現場よりも打ち合わせの段階でセリフの意味やトーンについてよく話し合って気持ちを作ってもらいました。2人だけで脚本の中身について話し合う時間もあったみたいで、現場ではあまり口出ししたくなかったんです。
例えば、長回しをした口論のシーンは“口論をする”という部分までは決まっていったのですが、そのあとどちらが残るのか、2人とも立ち去るのか、という部分は決まっていませんでした。リハーサルの中でおふたりから自然と生まれた言葉があり、それをいただいて本番に入ったりしました。

———本編に数回挿入される写真にも大きな魅力を感じました。

吉川:本編の中の写真も、根矢さんが持っているフィルムカメラでの撮影なのですが、元々の2人の関係性も含めて「アオとシオリの気持ちになって撮ってみてください」とだけ伝え、セッティングなどの合間に撮影スタッフからは離れて二人だけの時間で撮ってもらいました。
フィルムカメラだったので現場ではどういった写真になっているかわからないでいたんですが、元々の関係もあってか、被写体との距離が現場で初めて知り合っただけでは撮れない距離感の写真になっていると感じましたね。

なるべく色々な面白い人たちに関わってもらって、それを自分の持っていきたい方向性に

ディレクションする。

 

———本作が2本目の監督作ということですが、以前の制作の時と変化したことはありますか。


吉川:そうですね。最初の作品では役者さんと全然コミュニケーションを取れなかったんです。それと比べて本作では、打ち合わせでも現場でもコミュニケーションを取れていたと思います。撮影・照明部ともタイトなスケジュールの中で即興の演技を撮りたいとお願いしていたので、現場で臨機応変に動けるようよく話し合いました。リハーサルまでは役者さんとの対話にできるだけ時間を使って、本番前は撮影部とどういうカットを作っていくかに時間を使いました。
実はこの作品の制作から1年以上経っていて、正直『アオとシオリ』の時と今でかなり考えが変わっていますね。今の方がじっくり演技を捉えたいと思っているんですが、当時はカットを多くして観ている人を飽きさせないようにしたいっていう考えがありました。 この作品の後でシャンタル・アケルマンやミヒャエル・ハネケ、クシシュトフ・キェシロフスキなどの撮影方法に影響を受けて考え方も変わっています。
例えばアケルマンなどは女性に対しての描き方が自分にとって斬新で、「女性の生活というのは映画の中でアクションやサスペンス、恋愛よりも立ち位置が下になるという中でフェミニスト映画を撮りたかった」と語っていて、そういう人物の撮り方や考え方もあるのかと、自分の中では衝撃的でした。

———吉川監督の作品ではカメラを通して女性の姿をじっと見つめる時間が大きいように感じるのですが、被写体としての女性にこだわりがあるのでしょうか。


吉川:今書いている物語も女性が主要な登場人物なんですが、女性に限ってというわけではなく異性としての“わからなさ”が面白いなと思う部分があって、今まで男性ではなく女性を描いてきたというところがあります。
自分の中ではわからないのが不安になっちゃって決めつけをしたくなるんです。だけど、やっぱりその人なりの色々な行為の意味があるだろうし、そういった色々な行為をある一つの方向に沿って映画として描くのではなく客観的な立場で描いていたいです。

———吉川監督にとって、監督の役割は何だと思いますか。


吉川:今まではカットやコンテ、演出も音楽も美術にもなるべく関わって全部 一人でやりたかったんです。だけど、今はなるべく色々な面白い人たちに関わってもらって、それを自分の持っていきたい方向性にディレクションするのが監督の役割なんじゃないかと思っています。

text:深田隆之  
photo:植地美鳩